SHARP

最短10分での「見える化」へのチャレンジ

従来、微生物を計測するには、採取した菌をシャーレで培養する「培養法」が一般的でしたが、熟練の専門家による手作業で数日以上かかり、コストもかかっていました。
『微生物を短時間で「見える化」したい』との強い思いから、2009年に研究開発を促進するプロジェクト<SDT(SHARP DREAM TECHNOLOGY)>で、新しい計測方法へのチャレンジがスタートしました。

当初、一定の波長の光を照射すると微生物が緑色に蛍光発光し、照射し続けると蛍光退色(蛍光量が減少)する現象に着目しました。退色量で、微生物のみを計測する「光照射蛍光退色法」です。 しかし、微生物の蛍光が微弱であるのに加えて退色が微量のため、商品化に必要なレベルまで計測精度を高めるのは非常に困難なことがわかりました。
他に検討した方法も技術的に難しく、プロジェクトの期限が迫る中、打開策が見い出せず八方塞がりの状態でした。

そんな時、幸いにも偶然が味方をしてくれました。「加熱したらもっと退色が進むのでは…」との仮説を立てて実験したところ、想定に反して微生物が光り出しました。商品化に十分なレベルまで蛍光します。この現象はメイラード反応※1によるものと実証でき、生物だけを蛍光させられることがわかりました。『やった!これなら微生物の「見える化」ができる!』。独自の計測方法が見つかったのです。「加熱蛍光増大法」※2と名付けました。

「小型化」・「コストダウン」へのチャレンジ

微生物の検出方法は確立できましたが、商品化には、「小型化」や「コストダウン」など、超えなければならない壁が多くありました。

プロジェクトのメンバーは研究者ばかりです。設計は得意であるものの、決められたコストで、限られたスペースに部品をユニット化するなど実装のノウハウがありません。しかし、幸いなことに、シャープには様々な得意技術やノウハウを持った部門や人材が数多くいます。
高圧電源やICといった電子部品の小型化は電子部品の開発部門、蛍光の検出機構の小型化には光学設計技術を持つ部門、パソコンとの連携や試作機評価試験は商品関連の部門など、様々な部門と連携し、小型化とコストダウンを進めることができました。

また、「加熱蛍光増大法」を用いた検出ユニットは、実環境ではダニの死骸・糞、花粉等の大きな粒子が微生物の数10倍以上に発光するため、微小粒子のカビ菌や細菌からの微弱な蛍光を隠してしまうという新たな課題が出てきました。
この課題については、サイクロン掃除機の開発者に協力を仰ぎました。掃除機の技術は微生物の検出には関係ないと思われるかもしれませんが、空気とホコリを遠心分離するサイクロンの原理を応用し、物質を遠心分離し、大きな粒子を取り込まないよう工夫しました。これにより、小さな機構にかかわらず不要物質の99%以上をカットすることができました。

こうした様々な取組みにより、空気中を浮遊するカビ菌や細菌などの微生物量を最短10分で自動計測できる「微生物センサ」が誕生しました。パソコンとの接続も可能で、連続計測にも対応しているため、微生物の経時変化をモニタリングすることも可能です。

新たなお客様を求めて

「微生物センサ」は世の中にない商品のため、販売ルートもありませんでした。
ホームページで紹介することで認知度を高めるとともに、食品・医薬品関連の企業が多い東京・名古屋・大阪で商品説明会を実施し、説明会後にお客様と懇親会も行いました。また、食品業界向けの専門誌に広告を出稿したり、企業の品質担当者にダイレクトメールを送るなど試行錯誤を重ねました。
現在では、お客様の要望に合わせたカスタマイズ販売や他社製品と組み合わせた提案など、様々な方法で事業展開を進めています。

海外においては、中国・中東などでお客様にデモ機を貸し出したり、北米では展示会に出展するなど、グローバルでビジネスモデルへの挑戦を進めています。

こうした様々なチャレンジの結果、「微生物センサ」は、日刊工業新聞社が主催する2013年度 十大新製品賞「日本力(にっぽんぶらんど)賞」※3を受賞しました。

これからも、「空気の安心・安全」を目指してシャープはチャレンジし続けます。

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