SHARP

理論を製品化するチャレンジ

「カラー暗視カメラ」の開発は、独立行政法人産業技術総合研究所(以下、産総研)が特許を取得した「ゼロルクスカラー撮影理論(暗闇でカラー撮影できる理論)」を製品化する共同プロジェクトの公募に、シャープが選ばれたことから始まりました。

そもそも色は、どのように存在しているのでしょう? 物質に可視光線が当たり、それぞれの色の波長で光が反射されることによって、私たちの視覚に「色」として認識されます。0(ゼロ)ルクスという全く光が無い環境では、明るくせずに物質の色味を反射させる光線を出す必要があり、それが近赤外線という光です。

しかし、全く違う波長の光線なので、反射された近赤外線を私たちの視覚が捉える色味と近いものに再構築しなくてはなりません。私たちが普段見ている光(可視光線)の代わりに目に見えない光線(近赤外線)を照射し、跳ね返って来た近赤外光の色を分光することでカラーを再現するのです。

理論の上では成立していても、製品化するには多くのチャレンジが待ち構えていました。しかし、この製品化が実現すれば、光の存在しない世界に色をもたらすことができるのです。私たちは総力を結集させてこの課題にチャレンジしました。

0ルクス 肉眼で見えない近赤外光を対象物に照射し跳ね返ってきた光を分光し、カラー化

実用レベルへのチャレンジ

「カラー暗視カメラ」には、CCDという小型のセンサーが使用されています。「カラー暗視カメラ」は、光の三原色であるRGB(レッド/グリーン/ブルー)の情報をCCDで読み込むのですが、その方法は大きく分けて二つあります。ひとつは、RGBを3回に分けて読み込み、色味を再構築する「順次点灯式」。もうひとつは、RGBを3つのセンサーで読み込み、合成して色味を再現する「三板式」です。「順次点灯式」は対象が動かない場合は良いのですが、動画では色ごとにタイムラグが生じ、高画質を維持することが難しい。一方、「三板式」だとセンサーが3つ必要なので、実用レベルの小型化が難しい。

そこで私たちは1つのセンサーで読み込みを1回だけ行う「単板式」での開発にチャレンジしました。まず、近赤外線の色味を実際の色味に近付けていくために、特殊なCCDの画素構造を開発。これにより、ひとつのCCDで一度にRGBの情報を読み込むことができ、同時に実用レベルの小型化も実現しました。

CEATEC JAPAN 2014において「米国メディアパネル・イノベーションアワード」の「デジタルイメージング部門賞」を受賞

暗闇で色味を再現するチャレンジ

次なる課題は色味。日中の撮影と暗闇の撮影では受光する光が違いますが、それをひとつのデバイスで解析しなければなりません。とりわけ、近赤外線による色味を普段私たちが見ている光(可視光線)の色味に近付けることは、非常に高いハードルです。過去のデータがないため、何度もテストを繰り返しました。開発陣の経験と技術を駆使しながらCCDの画素構造を調節し、最後には二つの光線の色味をひとつのセンサーで同じように再現することに成功しました。

ようやくひとつのデバイスで昼夜を問わずにカラー撮影できる技術は開発できましたが、今までにない特殊な画素構造を実現するには、非常に高い技術力が求められます。
このデバイスを創り出すプロセスは、まさに職人技。保有していた半導体製造装置を活用し、技術者たちの英知と経験を総動員させながら、自社の半導体製造ラインで自動生産できるまでチャレンジし続けました。
このチャレンジには、40年にわたるCCD開発の経験と技術をあますところなく活かしました。

従来のカメラ
カラー暗視カメラ

“今までにない”を当たり前に

日刊工業新聞社2014年十大新製品賞「日本力(にっぽんぶらんど)賞」

こうして製品化に成功した「カラー暗視カメラ」は、CEATEC JAPAN 2014において「米国メディアパネル・イノベーションアワード」の「デジタルイメージング部門賞」を受賞し、また日刊工業新聞社が主催する2014年十大新製品賞「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞することができました。HD-SDIという標準規格の出力に対応し、実用レベルの小型化を実現、さらに、当社のCCD開発技術を結集することでハイビジョン画質の滑らかな撮影を可能にした「カラー暗視カメラ」。昼夜を問わず、明るいところも真っ暗なところも同じようにカラーで見える世界。今までは考えられなかったことが、これからは当たり前になります。

例えば、防犯カメラでは車の色や周囲の状況をより明確に、鮮明に記録できるようになります。また、病院や介護施設における見守り用途、夜間の動植物観察や車載用アシストカメラとしての応用が期待されています。ご家庭では、フラッシュを使わずにお子様の寝顔を撮影することも可能になります。

今後は更なる高画質化や小型化を目指すとともに、無線によるネットワーク化や様々な分野で活用される応用技術へもチャレンジしていきます。将来は宇宙空間や深海など、光の届かない特殊な空間に色彩をもたらすことが当たり前になるかもしれません。そんな未来を考えると、私たちはワクワクしてまた次なる課題に挑戦したくなるのです。
「カラー暗視カメラ」の技術がどんな世界を見せてくれるのか、どうぞご期待ください。

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