蚊に関わる男のスペシャル談義 松田栄睦(シャープ)×白井良和(害虫防除技術研究所)

蚊に関わることになったきっかけは?

  • 人にはよく「蚊が好きで研究を始めたんですか?」と聞かれるんですが、生まれ育った実家が蚊が多く何とかしたいと思ったのが蚊に関わるきっかけです。 あと私は、もともと昆虫が好きだったので、仕事で害虫対策に携わっていれば、昆虫に触れる機会もあるかなぁと思ったのが、今の仕事につながっていますね。
  • 私からはシャープがなぜ、「蚊取空清」を発売することになったかをお話させていただきます。 実はこの商品は、6年前にASEANから「蚊が取れる空気清浄機を作って欲しい」という強い要望のもとで開発が始まったんです。 ASEANでは日本と比べものにならないくらい蚊が多いですから、悩みも深刻だったんでしょうね。私自身は蚊の被害と言っても当時はピンとこなかったんですが、いろいろ調べていくと「人間に対していちばん危害を及ぼしているのは蚊だ」ということを知り驚きました。 そこからは、まぁ一言では語れない試行錯誤があり、6年の歳月を経てやっと商品が完成したわけです。
    最近は日本でも蚊が及ぼす被害についていろいろ話題になることがありましたので、焦る気持ちはあったんですが、発売することができて、正直ホッとしましたね。
本当はね、蚊がキライなんです

お二人が知る、蚊の習性について教えてください

  • 開発当初は、「空気清浄機」と「蚊取り機能」をどう組み合せたら一番相性のいいものができるのか、ということを試行錯誤していましたね。 薬剤を使わないということは初めから決めていた訳ではなかったのですが、空気をキレイにする空気清浄機だから、やはり薬剤は使わない方がいい。 そこで、蚊の習性について本格的に調べ始めました。蚊についての専門的な知識はほとんど持っていなかったので、ネットや書物などで調査を重ね、 さまざまな習性の中から、「黒い色を好む」「UVライトにひかれる」「狭くて暗い場所に隠れたがる」という蚊の習性が空気清浄機にも活かせるのではないか、と行きついたんです。
  • 私も二酸化炭素や水分や熱に引き寄せられる蚊の習性を利用して、効率的に蚊を捕獲する装置を作れないものかと考えたことがあったのですが、いろいろ解決しなければいけないことが多すぎて実現しませんでした。
    蚊に携わるものにとって「殺虫剤を使わずに蚊を取る」ということは夢でもあるので、この商品の登場はその夢に一歩近づく意味でも大変有意義な出来事だと思いますね。
簡単に蚊を捕獲する方法を発見したら、ノーベル賞を狙えますよ

商品開発には苦労がつきものですが…

  • 商品の発売までに6年かかったんですが、そのうち4年は方式を見極めるのに費やしました。 一般的な方法でいくと薬剤を使って蚊を殺虫する方法があるのですが、それだと「空気清浄機と蚊取り器を併用するのと何が違うの?」となりますし、赤ちゃんやペットのいるご家庭にもおすすめするには、やはり薬剤は使いたくない。 では、どうやって蚊を捕獲するか?蚊の習性を利用すると言っても、どんな習性が利用できるのか、まさに暗闇の中で道をみつけるような作業でした。 実験はトータルで67回行い、使った蚊の総数は1万匹以上です。6年という開発期間は、他の商品に比べても群を抜いて長い期間です。
  • 私もいろいろ捕獲器を考えましたが、市販のゴキブリ取りのような小さなもので蚊が好む二酸化炭素や熱を発生させようとするのは、かなり無理がある。 あとは、蚊は動くものについていくので、動く捕獲器、動物のカタチをしたオモチャのようなものなら使ってもらえるんじゃなかいとも考えました。 人とマウスで実験もしてみましたが、蚊はマウスより人の方についていくんです。人間ぐらいの大きさの動くオモチャでは、じゃまになって誰も使ってくれないですよね。
対談の様子
  • 動く捕獲器ですかぁ。面白そうですね。
  • シャープさん、やってみますか?(笑)
アイデアはあるんですが、カタチにするのが難しい…

「蚊取空清」って、どう思いましたか?

  • 正直な話、まずはじめに思ったのは「ホントに蚊が取れるの?」ってことですね。でも、今回実験に立ち会わせてもらってその疑問は払拭されました。 こう言ってしまっては身も蓋もないですが、研究者としては、本当に取れるかどうかよりも、こういう商品を世の中に誕生させたということが素晴らしいことだと思っています。 シャープさんのような家電メーカーがこのような新しい商品を作ると、波及効果というか影響が大きいですから。 蚊の捕獲について関心が高まることが、結果的には蚊の被害を減らすことになると思うので…。
    今回の実験は、実際の使用環境に近い状態で10匹の蚊を放して実験してますよね。そのやり方も面白いと思いました。私がもし依頼を受けてやるなら、もっと多くの蚊を使って試していたと思います。
  • 今回はリアリティを追求したかったので、身近な家屋でもありうる10匹にしました。実験室のように200匹とか飛んでる家や施設はありませんから(笑)
    実際、他部門の社員からは「実験室での結果はよく分かった。でも実際の家でホントに蚊が取れるのか?」という声は多くあったんです。私自身も初めは疑心暗鬼だったので、自宅で試作機を試したんですよ。 そしたら、1ヶ月使ってみたところ、結構な数の蚊が取れたんです。しかも12月に!
  • 「蚊取空清」のような世の中になかった商品は、ほとんどの人が疑うことから入ると思います。
  • この商品には面白いエピソードがあるんですよ。ASEANで、あるご年配の方にこの商品をお使いいただいたところ、 これまでは「蚊が多いから」という理由であまり遊びに来てくれなかったお孫さんが、「蚊取空清」を置いてからは蚊が少なくなったのでよく遊びに来るようになったと…。 作り話みたいですが、事実なんですよ!
これが自宅で実際に使った時の蚊取りシートです

お二人の今後の夢は?

  • 世の中というか、日本全体で蚊の対策をしようという雰囲気が高まっていくといいなと思います。 私自身、蚊の恐ろしさをよく知っているので、多くの人が蚊の被害から身を守る知識を身につけてくれるとうれしく思いますね。
  • この「蚊取空清」おかげさまで想定していた以上に話題になり、出足は大変好調なんですが、一過性で終わるのではなく定番商品になって欲しいなと思っています。 定番になってこそ、一人でも多く、蚊にお悩みの方たちの力になれると思うので。そのためにこれからも努力していきたいですね。 あとね、ハードルは高いんですが、もっと能動的に蚊を見つけて取りにいくような商品ができたら面白いなと思います。でも難しいかな(笑)
思いは同じ、蚊で困る人を助けたい
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